GCカラム選択と分離の最適化ガイド
はじめに
- この記事では、正しいGCカラムを選ぶ方法を学ぶことができます。
- 分離と速度のベストバランスのために最適化をおこなうことができます。
- クロマトグラフィーの症状に基づいて迅速かつ効果的にトラブルシューティングができます。
分析時間と分離度が最適化されていることを確認することで、ラボの生産性を向上させることができます。 これを実現するための最良の方法の一つは、分離度の計算式(Figure 1)を駆使して、分離度を制御することです。 基本的な方程式は、特定のアプリケーションに最適なカラム固定相、長さ、内径(ID)であり、膜厚を選択するのに役立ちます。 分離度がGCカラムの特性とどのように関連しているかの基本を理解すれば、分離と速度の両方を最適化することが容易になるでしょう。 本記事におけるGCカラム選択ガイドでは、分離の基本を説明し、適切なGCカラムを選択する方法をお伝えできればと思います!
まず、分離の向上は、すべてのクロマトグラファーの目標ですが、どれだけの分離であれば十分なのでしょうか? 実際にはシャープで対称的なピークを得るために十分な保持が必要ですが、保持時間が長すぎてピークが広がり始めないようにしなければなりません。 この目標を達成するためには、「完璧な分離」に影響を与えるカラムおよびカラム以外の要因を考慮する必要があります。 そうして初めて適切なカラムの選択と分離および分析時間の最適化に取り組むことができます。 それでは、順番に分離係数(α)、保持係数(k)、および理論段数(N)を考え、それらが適切なカラムの選択と分離の最適化にどのように役立つかを見ていきましょう。
Figure 1: 分離度の方程式とそれに影響を与える要因
■ カラム選択(簡単な選択手順)
- まず最初にアプリケーション固有の固定相を探してください。 これらのカラムは特定の分析に最適化されており、最短時間で最高の分解度を提供します(Table III)。
- アプリケーション固有のカラムが利用できない場合、低濃度を測定する必要がある場合、または質量分析計(MS)を使用している場合は、Rxiカラムを選択してください。 Rxiテクノロジーは、優れた不活性度、低ブリード、高い再現性を提供し、微量分析とMS分析に理想的な高性能のGCカラムを提供します(Table II)。
- 他のメソッドの場合には、汎用のRtxカラムを選択してください(Table II)。
■ カラム選択 (各係数に基づいた選択手順)
1. 分離係数(α)を使用して最適な固定相を選択する
適切な固定相を選択することは、GC分離を最適化するための第一歩です。 分離係数(α)は、分離能に最も大きな影響を及ぼし、固定相の極性と選択性に強く影響されるため、これは最も重要な決定です。
固定相の極性は、固定相の種類と固定相内の官能基の量によって決まります。 カラムを選択する際には、固定相と対象の分析種の両方の極性を考慮して設定をおこなってください。 固定相と分析種の極性が類似している場合、相互作用が強くなり、より強い保持が得られます。 そして、保持が増すと、通常は分離能が向上します。 固定相の極性は、カラムを選択する際に有用な考慮事項であり、カラム選択性と分離係数に強く影響します。
IUPACによれば、固定相の選択性は、特定の物質の測定に他の物質がどれだけ干渉するかと定義されています。 選択性は、固定相の組成とそれが目標化合物とどのように相互作用(水素結合、分散、双極子-双極子相互作用、およびピーク形状の選択性)するかに直接、関連しています。
固定相中のメチル基がフェニルやシアノプロピル基などの異なる官能基に置き換えられると、それらの官能基と相溶性のある化合物(例えば、芳香族化合物や極性化合物)はより強く相互作用し、通常は分離能が向上し、選択性が増加します。 別の例として、Rtx-200の固定相は、フッ素の官能基を含みため、ハロゲン、窒素、またはカルボニル基を含む分析物に対して非常に選択的です。
選択性は既存のアプリケーションまたはリテンションインデックス(保持指数)(Table I)を使用して近似することができ、これらは特定の分析に最適な固定相の比較、選択のための有用なツールです。
極性と選択性は、分離係数に影響を与えるため、これらはカラムを選択する際の主な考慮事項となります。
ただし、温度制限も考慮する必要があります。一般的に、極性の高い固定相は最高使用温度が低いため、分析対象の種類に対する最適な極性と選択性に合わせて、適切な最高使用温度を持つカラムを選択することが重要です。Table IIとFigure 2を使用して、分析の選択性、極性、温度要件を考慮したうえで、どのカラムが最も適しているかを判断してください。 特定のアプリケーション向けに設計された特殊な固定相の一覧は、Table IIIを参照してください。
※技術的なヒント
多くの場合、GCの昇温プログラムが異なると、同じカラムでもサンプルの溶出順序が変わる可能性があります。 昇温プログラムを変更する場合は、溶出順序を再確認してください。
Table I: GC固定相のKovatの保持指数は、選択性を近似するために使用可能
固定相 | ベンゼン | ブタノール | ペンタノン | ニトロプロパン |
100% ジメチルポリシロキサン | 651 | 651 | 667 | 705 |
5% ジフェニル/95% ジメチルポリシロキサン | 667 | 667 | 689 | 743 |
20% ジフェニル/80% ジメチルポリシロキサン | 711 | 704 | 740 | 820 |
6% シアノプロピルフェニル/94% ジメチルポリシロキサン | 689 | 729 | 739 | 816 |
35% ジフェニル/65% ジメチルポリシロキサン | 746 | 733 | 773 | 867 |
トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン | 738 | 758 | 884 | 980 |
フェニルメチルポリシロキサン | 778 | 769 | 813 | 921 |
14% シアノプロピルフェニル/86% ジメチルポリシロキサン | 721 | 778 | 784 | 881 |
65% ジフェニル/35% ジメチルポリシロキサン | 794 | 779 | 825 | 938 |
50% シアノプロピルメチル/50% フェニルメチルポリシロキサン | 847 | 937 | 958 | 958 |
ポリエチレングリコール | 963 | 1158 | 998 | 1230 |
■ 固定相
固定相Figure 2: 一般的な固定相の極性スケール |
※技術的なヒント
同系列の化合物、つまり、同じ化学クラスの分析物(例:アルコール類、ケトン類、またはアルデヒド類など)は、任意の固定相上で沸点順に溶出します。 ただし、異なる種類の化合物が 1 つのサンプル内で混合される場合、沸点ではなく、分析対象物と固定相の間の分子間力が主要な分離メカニズムになります。
Table II: 固定相の極性と最高使用温度は、GCカラムを選択する上で重要な考慮事項
Restek | 相組成(USP命名法) | Restekの最高使用温度 | Agilent | Phenomenex |
Rxi-1HT, Rxi-1ms, Rtx-1 |
100% ジメチルポリシロキサン(G1、G2、G38) | 400 °C 350 °C |
HP-1/HP-1ms, DB-1/DB-1ms, VF-1ms, CP Sil 5 CB, Ultra 1, DB-1ht, HP-1ms UI, DB-1ms UI |
ZB-1, ZB-1MS, ZB-1HT Inferno |
Rxi-5HT, Rtx-5ms, Rxi-5ms, Rtx-5 |
5% ジフェニル/95% ジメチルポリシロキサン(G27、G36) | 400 °C 350 °C |
HP-5/HP-5ms, DB-5, Ultra 2, DB-5ht, VF-5ht, CP-Sil 8 CB |
ZB-5, ZB-5HT Inferno, ZB-5ms |
Rxi-5Sil MS | 5%(1,4-ビス(ジメチルシロキシ)フェニレン/95% ジメチルポリシロキサン | 350 °C | DB-5ms UI, DB-5ms,VF-5ms |
ZB-5msi |
Rxi-XLB | プロプライエタリフェーズ | 360 °C | DB-XLB, VF-Xms | MR1, ZB-XLB |
Rtx-20 | 20% ジフェニル/80% ジメチルポリシロキサン(G28、G32) | 320 °C | — | — |
Rtx-35 | 35% ジフェニル/65% ジメチルポリシロキサン(G42) | 320 °C | HP-35, DB-35 | ZB-35 |
Rxi-35Sil MS | 非公開 | 360 °C | DB-35ms, DB-35ms UI, VF-35ms | MR2 |
Rtx-50 | フェニルメチルポリシロキサン(G3) | 320 °C | — | — |
Rxi-17 | 50% ジフェニル/50% ジメチルポリシロキサン | 320 °C | DB-17ms, VF-17ms, CP Sil 24 CB |
ZB-50 |
Rxi-17Sil MS | 非公開 | 360 °C | DB-17ms, VF-17ms, CP Sil 24 CB |
ZB-50 |
Rtx-65 | 65% ジフェニル/35% ジメチルポリシロキサン(G17) | 300 °C | — | — |
Rxi-624Sil MS | 非公開 | 320 °C | DB-624 UI, VF-624ms, CP-Select 624 CB | ZB-624 |
Rtx-1301, Rtx-624 |
6% シアノプロピルフェニル/94% ジメチルポリシロキサン(G43) | 280 °C 240 °C |
DB-1301, DB-624, CP-1301, VF-1301ms, VF-624ms |
ZB-624 |
Rtx-1701 | 14% シアノプロピルフェニル/86% ジメチルポリシロキサン(G46) | 280 °C | DB-1701, VF-1701ms, CP Sil 19 CB, VF-1701 Pesticides, DB-1701R |
ZB-1701, ZB-1701P |
Rtx-200 | トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン(G6) | 360 °C | DB-200, VF-200ms, DB-210 | — |
Rtx-200ms | トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン(G6) | 340 °C | DB-200, VF-200ms, DB-210 | — |
Rtx-225 | 50% シアノプロピルメチル/50% フェニルメチルポリシロキサン(G7、G19) | 240 °C | DB-225ms, CP Sil 43 CB |
— |
Rtx-440 | 非公開 | 340 °C | RESTEK INNOVATION | |
Rtx-2330 | 90% ビシアノプロピル/10% シアノプロピルフェニルポリシロキサン(G48) | 275 °C | VF-23ms | — |
Rt-2560 | ビシアノプロピルポリシロキサン | 250 °C | HP-88, CP Sil 88 | — |
Rtx-Wax | ポリエチレングリコール(G14、G15、G16、G20、G39) | 250 °C | CP-Wax 52 CB, DB-Wax, DB-WAX UI |
ZB-WAX |
Stabilwax | ポリエチレングリコール(G14、G15、G16、G20、G39) | 260 °C | HP-INNOWax, VF-WaxMS |
ZB-WAXPlus |
* 最高使用温度はカラムの膜厚によって変わる場合もあります。
Table III: 特定の分析用に設計されたアプリケーション専用の固定相
Restek | アプリケーション | Agilent | Supelco | Macherey-Nagel | SGE | Phenomenex |
Rtx-Volatile Amine | 揮発性アミン | CP-VolAmine | — | — | — | — |
Rtx-5Amine | アミン | CP-Sil 8 CB | — | OPTIMA 5 Amine | — | — |
Rtx-35Amine | アミン | RESTEK INNOVATION | ||||
Stabilwax-DB | アミン | CAM, CP WAX 51 | Carbowax Amine | FS-CW 20 M-AM | — | — |
Stabilwax-DA | 遊離脂肪酸 | HP-FFAP, DB-FFAP, VF-DA, CP WAX58 CB, CP-FFAP CB |
Nukol | PERMABOND FFAP, OPTIMA FFAP, OPTIMA FFAP Plus |
BP-21 | ZB-FFAP |
キラルカラム | ||||||
Rt-βDEXm, Rt-βDEXsm, Rt-βDEXse, Rt-βDEXsp, Rt-βDEXsa, Rt-βDEXcst, Rt-γDEXsa |
キラル化合物 | — | — | — | — | — |
食品、香料、およびフレグランス | ||||||
Rt-2560 | シス/トランス脂肪酸メチルエステル(FAME) | HP-88 | SPB-2560 | — | — | — |
FAMEWAX | 海洋油 | DB-FATWAX UI | Omegawax | — | — | — |
Rtx-65TG | トリグリセリド | — | — | — | — | — |
Rxi-PAH | 多環芳香族炭化水素(PAHs) | Agilent Select PAH | — | — | — | — |
石油および石油化学 | ||||||
Rxi-LAO | Linear alpha olefin impurities | RESTEK INNOVATION | ||||
Rt-Alumina BOND/CFC | 塩素化フルオロカーボン(CFC) | RESTEK INNOVATION | ||||
Rt-Alumina BOND/MAPD | メチルアセチレン、プロパジエン、およびアセチレンの微量分析 | Select Al₂0₃ MAPD | ||||
Rtx-DHA | 詳細な炭化水素分析 | HP-PONA, DB-Petro, CP Sil PONA CB | Petrocol DH | — | BP1PONA | — |
Rtx-2887, MXT-2887 |
炭化水素(ASTM D2887) | DB-2887 | Petrocol 2887, Petrocol EX2887 |
— | — | — |
D3606 | エタノール(ASTM D3606) | RESTEK INNOVATION | ||||
Rt-TCEP | ガソリン中の芳香族および酸素系化合物 | CP-TCEP | TCEP | — | — | — |
MXT-1HT SimDist | 疑似蒸留 | DB-HT-SimDis, CP-SimDist, CP-SimDist Ultimetal |
— | — | BPX1 | ZB-1XT SimDist |
Rtx-Biodiesel TG, MXT-Biodiesel TG |
バイオディーゼル中のトリグリセリド | Biodiesel, Select Biodiesel |
— | OPTIMA Biodiesel | — | ZB-Bioethanol |
臨床/法医学 | ||||||
Rtx-BAC Plus 1 | 血中アルコール検査 | DB-ALC1 | — | — | — | ZB-BAC1 |
Rtx-BAC Plus 2 | 血中アルコール検査 | DB-ALC2 | — | — | — | ZB-BAC2 |
医薬品 | ||||||
Rxi-624Sil MS (G43) | 有機揮発性不純物(USP <467>) | DB-624, VF-624ms, CP-Select 624 CB |
— | OPTIMA 624 LB | BP624 | ZB-624 |
Rtx-5 (G27) | 有機揮発性不純物(USP <467>) | HP-5, DB-5, CP Sil 8 CB |
SPB-5 | OPTIMA 5 | BP5 | ZB-5 |
Stabilwax (G16) | 有機揮発性不純物(USP <467>) | HP-INNOWax, CP Wax 52 CB, VF-WAX MS |
Supelcowax-10 | OPTIMA WAXplus | — | ZB-WAXplus |
環境 | ||||||
Rxi-SVOCms | 半揮発性有機化合物、多環芳香族炭化水素 | DB-UI 8270D | ZB-SemiVolatiles | |||
Rxi-5Sil MS | 半揮発性有機化合物、多環芳香族炭化水素 | DB-5ms, DB-5msUI, VF-5ms, CP-Sil 8 CB |
SLB-5ms | OPTIMA 5MS Accent | BPX5 | ZB-5msi |
Rtx-VMS | 揮発性有機化合物 (EPA Methods 8260, 624, 524) | RESTEK INNOVATION | ||||
Rxi-624Sil MS | 揮発性有機化合物 (EPA Methods 624) | DB-624, VF-624ms, CP-Select 624 CB |
— | OPTIMA 624 LB | BP624 | ZB-624 |
Rtx-502.2 | 揮発性有機化合物 (EPA Methods 8010, 8020, 502.2, 601, 602) | DB-502.2 | VOCOL | — | — | — |
Rtx-Volatiles | 揮発性有機化合物 (EPA Methods 8010, 8020, 502.2, 601, 602) | — | VOCOL | — | — | — |
Rtx-VRX | 揮発性有機化合物 (EPA Methods 8010, 8020, 502.2, 601, 602) | DB-VRX | — | — | — | — |
Rtx-CLPesticides | 有機塩素系農薬 | RESTEK INNOVATION | ||||
Rtx-CLPesticides2 | 有機塩素系農薬 | RESTEK INNOVATION | ||||
Rtx-1614 | 臭素系難燃剤 | RESTEK INNOVATION | ||||
Rtx-PCB | ポリ塩化ビフェニル(PCB)同系体 | RESTEK INNOVATION | ||||
Rxi-XLB | ポリ塩化ビフェニル(PCB)同系体 | DB-XLB,VF-XMS | — | — | — | MR1, ZB-XLB |
Rtx-OPPesticides | 有機リン系農薬 | RESTEK INNOVATION | ||||
Rtx-OPPesticides2 | 有機リン系農薬 | RESTEK INNOVATION | ||||
Rtx-Dioxin2 | ダイオキシンおよびフラン | RESTEK INNOVATION | ||||
Rtx-Mineral Oil | DIN EN ISO 9377-2 | Select Mineral Oil | — | — | — | — |
2. 保持係数に基づいてカラムの膜厚と内径を選択する
固定相を選択したら、最適な分離能と速度を得るために必要な保持係数(k)を与えるカラムの膜厚と内径の組み合わせを決定する必要があります。 保持係数(retention factor)は、「保持係数(capacity factor)」とも呼ばれることがありますが、サンプル負荷容量と混同しないでください。
カラムの保持係数(k)は、分析種が固定相に滞在する時間と、キャリヤーガスに滞在する時間に基づいています。 一般的なルールとして、膜厚が厚いほど、また内径が小さいほど、分析種は保持されます。 温度が上昇するとkは減少するため、高温では分析種がキャリヤーガスに長く滞在し、保持が短くなります。
実際には、カラムの保持係数(k)の値が大きすぎるとピーク幅が広がり、分離性能が低下し、ピークが重なったり共溶出したりする可能性があります。
分離能を最大にするには狭くて対称的なピークが重要であるため、目標は、分離ができ、かつピーク形状が損なわれないように、十分な保持係数を持つカラムを選択することです。 適切な固定相を選択したら、許容可能な保持係数を得るためにカラムの膜厚、カラム内径、および溶出温度を最適化する必要があります。
※技術的なヒント
カラムのサンプル負荷容量も考慮する必要があります。 サンプルの注入量がカラムのサンプル負荷容量を超えると、分離能の低下、再現性の低下、およびピークのフロンティングが発生します。 純度分析などの高濃度サンプルには、サンプルの過負荷を最小限に抑えるために、より厚い膜厚を備えた大きい内径のカラムをお勧めします。
■ 膜厚
膜厚(μm)は、各サンプル成分の保持とカラムの最高使用温度の両方に直接影響します。 極めて揮発性の高い化合物を分析する場合、膜厚の厚いカラムを使用して保持を増加させるべきです。 これにより、化合物が固定相に滞在する時間が増え、より多くの分離が達成されます。 高分子量化合物を分析する場合は、膜厚の薄いカラムを使用するべきです。 これにより、分析種がカラム内に滞在する時間が短縮され、高い溶出温度で発生しがちなカラムブリードを最小限に抑えられます。 Figure 3を使用して、アプリケーションに最適な膜厚を選択してください。 一般的な原則として、膜厚が厚いほど、最高使用温度が低くなります。
膜厚Figure 3: 膜厚に基づく特性と推奨される用途 |
※技術的なヒント
膜厚の厚さまたは温度プログラムを変更する際には、沸点の順序が変わる可能性があるため、ピークの同定を再確認する必要があります。
■ 内径(ID)
カラムの内径(ID)は膜厚ほど保持係数に大きな影響を与えません。 ただし、保持係数(k)を考慮してカラムIDを選択する際には、覚えておくべき一般的な法則があります。 それは、内径が小さいカラムは、内径が大きいカラムと比較して保持係数が高くなるということです。
これは、カラム内の移動相(キャリヤーガス)の容量が少ないためです。内径が小さいとkの値が高くなるため、これらのカラムは、サンプル中に低分子から高分子までの範囲の化合物が存在する複雑な分析に適しています(Figure 4)。 最高の分離能とピーク形状を得るためには、内径と膜厚の両方を同時に最適化する必要があることに留意してください。
内径Figure 4: カラム内径に基づく特性と推奨される用途 |
※技術的なヒント
カラム内径を選択する際に、どの注入方法を用いるかは重要です。これは、スプリット、スプリットレス、ダイレクト、クールオンカラム注入のいずれかによ って、適したカラム内径が異なる場合があり得るためです。たとえば、クールオンカラム注入では、0.53 mm内径のカラムが適していますが、これはシリン ジニードル(26ゲージ)に合ったカラム内径だからです。さらに、検出器の種類やそれに適した流量も考慮する必要があります。
たとえば、質量分析計には1.5mL/minまでのカラム流量でしか使用できないものもあります。したがって、最適なクロマト分離を得るために高流量が必要な0.53mm内径のカラムはこれには適しません。
■ 相比(β)
カラム内径と膜厚との関係は、相比(β)として表現されます。 大口径カラムで上手く分離され、より速い分析が必要な場合、内径を縮小することで、分解性能を犠牲にすることなく、むしろ場合によっては向上させることができます。 内径を小さくして、同様の化合物の溶出パターンを維持するには、膜厚も変更する必要があります。 近い相比のカラムを選択することで、新しいカラムへのアプリケーションの移行が容易になります。 一般的なカラムサイズの相比をTable IVに示します。ここで示されているように、分析時間を短縮したいと考える分析者は、0.32 mm x 0.50 µmカラム(β = 160)から0.25 mm x 0.25 μmカラム(β = 250)に切り替え、適切な方法の変換を行うと、非常に似た分離が得られます。 重要なのは、カラム内径と膜厚は試料負荷量に対して共通の影響を示し、内径と膜厚が減少すると試料負荷量も減少します。 この場合、より少ないサンプル量を注入する必要があると想定されます。
Table IV: 一般的なカラム寸法の相比(β)*値(同様の分離を得るために、内径または膜厚が異なるカラムへ移行する場合は、同様の相比をもつカラムを選択)
カラム内径(ID) | 膜厚 (df) | ||||||
0.10 µm | 0.25 µm | 0.50 µm | 1.0 µm | 1.5 µm | 3.0 µm | 5.0 µm | |
0.18 mm | 450 | 180 | 90 | 45 | 30 | 15 | 9 |
0.25 mm | 625 | 250 | 125 | 63 | 42 | 21 | 13 |
0.32 mm | 800 | 320 | 160 | 80 | 53 | 27 | 16 |
0.53 mm | 1325 | 530 | 265 | 128 | 88 | 43 | 27 |
*相比 (β) = 半径/2df (注: 計算前に変数を同じ単位に変換してください。)
3. カラムの長さ、内径、およびキャリヤーガスの選択時に効率を考慮する
■カラムの長さ
GC用のキャピラリーカラムは、内径に応じて通常10、15、30、60、および105メートルなど、さまざまな長さで製造されています。 同じ内径では短いカラムよりも長いカラムの方がより高い分離能を発揮しますが、分析時間が長くなるため、高い分離能が要求されるアプリケーションにのみ使用するべきです。
カラムの長さは、固定相が決定された後にのみ考慮すべきです。これは、分離能に最大の影響を与える分離係数が、分析種に対して適切な固定相の選択を通じて最大化されるためです。 カラムの長さを倍にする(例:30メートルから60メートル)と、分離能は約40%向上しますが、分析時間は2倍になります。また、長いカラムはコストがかかります。 逆に、短いカラムで分離できる場合(例:15メートル vs 30メートル)、分析時間とカラムのコストの両方が少なくなります。 Figure 5は、一連の一般的なカラム長の特性と一般的なアプリケーションパラメーターを要約しています。
長さFigure 5: カラムの長さに基づく特性と推奨される用途 |
■ 内径(ID)
大口径のカラムと比較して、小口径のカラムは1メートルあたりの段数が高く、ピークが鋭くなり、より優れた分離効率をもたらします。 より複雑なサンプルを分析する必要がある場合、小口径のカラムは大口径のカラムよりも近接したピークをより良く分離できます。 ただし、小口径のカラムの試料負荷容量は低いです。特に0.18 mm以下の小口径のカラムは、サンプル導入時にカラムの効率が失われないように非常に効率的な注入技術を要求します。内径に基づくカラムの特性は、Table Vに示されています。
一般的に、0.25 mmのカラムは分析時間と試料負荷量を同時に考慮しながら、最も効率的な分析を実現します。 これらの理由から、カラム出口の流量が低いことあわせて、GC/MS作業においても最適なカラムの選択となります。
Table V: 内径に基づく一般的なカラムの特性
特性 | カラム内径 (mm) | |||||
0.10 | 0.15 | 0.18 | 0.25 | 0.32 | 0.53 | |
窒素の流量 (mL/min) | 0.2 | 0.3 | 0.3 | 0.4 | 0.6 | 0.9 |
ヘリウムの流量 (mL/min) | 0.6 | 0.8 | 1.0 | 1.4 | 1.8 | 3.0 |
水素の流量 (mL/min) | 0.7 | 1.1 | 1.8 | 1.8 | 2.3 | 3.7 |
サンプル負荷量 (ng) | 2.5 | 10 | 20 | 50 | 125 | 500 |
理論段数 / メートル | 11,000 | 7000 | 6000 | 4000 | 3000 | 2000 |
注釈:記載されているフローは最大の効率のためのものです。サンプル負荷量はあくまで見積もりです。実際のサンプル負荷量は、膜の厚さや分析物によって異なります。
※技術的なヒント
キャリヤーガス流量を変更する際には、溶出する順序が変わる可能性があるため、ピークの同定を再確認する必要があります。
■ キャリヤーガスの種類と線速度
キャリヤーガスの選択と線速度はカラムの分離効率に大きな影響を与えます。これはvan Deemterプロットを使用するとよく理解できます(Figure 6)。各ガスの最適線速度は曲線の最も低い点となります。 このとき理論段相当高さ(H)は最小に、効率は最大になります。Figure 1に示した通り、最適な線速度はキャリヤーガスごとに異なります。
窒素は最も優れた効率をもたらします。しかし、van Deemterプロットでは最適線速度付近が急勾配になっており、線速度の小さな変化が効率に大きな悪影響を与えることがわかります。 窒素と比較して、ヘリウムは最適線速度付近の勾配は緩くなりますが、効率はわずかに低下します。
また最適な速度が速いため、ヘリウムでは分析時間が窒素を使用したときの約半分となり、速度が若干変わったとしても効率の低下はわずかです。 一般的な3種のキャリヤーガスのうち、水素はvan Deemterカーブが最も平坦であるため、分析時間が最も短く、高い効率が得られる線速度の範囲が最も広くなります。 使用するガスの種類に関係なく、キャリアガスのヘッド圧はカラム昇温プログラム実行中は一定ですが、平均線速度はプログラム中に低下します。
このため圧力を一定にして分析する場合、最も重要な分離に対して最適な線速度を設定する必要があります。 近年、一般的にはキャリヤーガスの電子圧力制御(EPC)により定流量はもちろん定線速度の制御までも可能になり、昇温プログラム中でも高い効率を維持することできます。
カラム効率には直接関係ありませんが、キャリヤーガスの種類について他の重要な留意点として、カラム出口が真空になる質量分析計(MS)を検出器として使用しているかどうかがあります。 クロマトグラフィーの効率だけではなく、真空ポンプによる排出が容易であるため、ほとんどすべての場合で水素よりヘリウムがキャリヤーガスに選択されます。
水素はMSソース内で反応する可能性があり、一部の化合物では好ましくないスペクトル変化を引き起こします。窒素は大幅に感度を低下させるため、通常はGC-MSのキャリヤーガスには使用しません。
Figure 6: 最適線速度でキャリヤーガスを流すと、所定の温度での効率が最も良くなります。赤丸は各キャリヤーガスの最適線速度を示しています。
4. トラブルシューティングのヒント
基本的な手順
これらの基本的なトラブルシューティング手順に従って、サンプル、インジェクター、検出器、およびカラムに関連する問題をそれぞれ切り離してください。 まず最初に明らかである真相を確認し、問題を特定し解決するまで、一度に1つだけ変更してください。
続いて、以下の項目が明確になっていることを確認してください。
|
|
|
さらに、その原因を特定してください。
- 問題を明確に定義してください。たとえば、「過去4日間、サンプルの中のフェノールだけがテーリングしています」といった具体的な問題を指摘します。
- データや問題の指標の傾向を特定するために、サンプルと保守記録を確認してください。 たとえば、時間の経過とともにエリアカウントが減少しているか、インジェクタの保守が予定通りに実施されていないかといった傾向があるかもしれません。
- 原因を絞り込むために論理的な手順を踏んでください。
作業を文書化し、システムのパフォーマンスを確認してください。
- トラブルシューティングの手順と結果をすべて文書に残しておくと、次の問題の特定と解決が迅速になるかもしれません。
- 復元されたパフォーマンスを確認するためには、常にテストミックスを注入して、以前のデータと比較してください。
■トラブルシューティングの例
ある分析者がGC-FID分析中にピークが表示されないことに気付きました。 以下のフローチャートは、原因を特定し問題を修正するために使用できる論理的な手順の進行を示しています。
■症状と解決策
正確で再現性のある結果を得るためには、優れたクロマトグラフィーは不可欠です。共溶出、非対称ピーク、ベースラインノイズなどは、ガスクロラボでよく見られる課題です。これらの分析上の問題やその他の課題は、以下のヒントを使用して分離をトラブルシューティングすることで克服できます。
分離が悪い
原因 | 解決策 | |
固定相が合っていない |
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カラム効率が悪い |
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サンプルのオーバーロード |
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正しくない分析条件の使用 |
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保持時間の再現性が低い
原因 | 解決策 | |
漏れ |
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分析成分の吸着 |
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分離/解析の問題 |
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不正確なカラム/オーブン温度プログラム |
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キャリヤーガス流量/線速度が間違っている、または不安定 |
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オーブン温度プログラミング制御に問題がある |
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オーブンの平衡化時間が適切でない |
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マニュアル注入の場合の、開始ボタンを押してから実際の注入までの遅延 |
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ピークのフロンティング
原因 | 解決策 | |
不適切な固定相 |
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カラムのオーバーロード |
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ピークのテーリング
原因 | 解決策 | |
表面活性または汚染に起因する吸着 |
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化合物の化学組成に起因する吸着 |
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システムの漏れ |
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取り付けに関する問題 |
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ピークの分裂
原因 | 解決策 | |
溶媒/固定相の極性が合っていない |
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不完全な気化 |
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サンプル負荷量が超過 |
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高速オートサンプラによりオープンライナーへの注入 |
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キャリーオーバー/ゴーストピーク
原因 | 解決策 | |
汚染されたシリンジまたは洗浄溶媒 |
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バックフラッシュ(サンプル量がライナー量を超える) |
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前回の分析終了が早すぎた |
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高ブリード
原因 | 解決策 | |
不適切なカラムコンディショニング |
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汚染 |
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システムの漏れと固定相の酸化 |
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不安定なベースライン(スパイク、ノイズ、ドリフト)
原因 | 解決策 | |
キャリヤーガスの漏れまたは汚染 |
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インジェクタまたは検出器の汚染 |
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カラムの汚染または固定相のブリード |
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セプタムコアリング/ブリード |
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ケーブルや回路基板の接続部分が緩んでいる |
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キャリヤーガスフローまたは検出器ガスフローが不安定 |
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検出器が準備できていない |
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レスポンスのばらつき
原因 | 解決策 | |
サンプルの問題 |
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シリンジの問題 |
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電気系統の問題 |
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汚れや損傷のある検出器 |
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フロー/温度設定が誤っているか変動している |
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吸着/反応性 |
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漏れ |
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サンプルの導入/注入方法の変更 |
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ピークなし
原因 | 解決策 | |
注入の問題 |
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壊れたカラム |
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カラムが、間違ったインジェクタまたは検出器に取り付けられている |
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検出器の問題 |
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ピークが広がる
原因 | 解決策 | |
デッドボリュームが大きい |
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流量が低い |
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GCオーブンプログラムが遅い |
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分析対象成分/溶剤のフォーカシング不良 |
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カラムの膜厚が厚すぎる |
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サンプルのキャリーオーバー |
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