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IcdPとDahAの分離を解決!GC-MS SVOC専用 Rxi-SVOCmsカラムでPAH分析を最適化

19 Feb 2025

Rxi-SVOCmsカラムの開発では、まず30 m x 0.25 mm x 0.25 µmカラムでベンゾ[ghi]ペリレン(BghiP)の溶出時間を16分に設定しつつ、PAH同重体の分離を最大化することを目標としました。その時のSVOC取得パラメータは、GC_EV1604で最適化されたスプリット注入を用いた条件を採用しました。特にベンゾ[b]フルオランテン-ベンゾ[k]フルオランテン(BbF - BkF)の分離が注目されることが多いですが、この実験ではインデノ[123-cd]ピレン-ジベンゾ[ah]アントラセン(IcdP - DahA)の分離についても重視し、限られた時間内で最適な分離が得られるよう調整しました。本記事では、インデノ[123-cd]ピレン(以降IcdP)とジベンゾ[ah]アントラセン(以降DahA)の分離について解説しますが、特に複雑な多環芳香族炭化水素(PAH)混合物の分析において、優れた分離が得られました。

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Figure 1 - インデノ[123-cd]ピレン(左)の抽出イオンクロマトグラム:ジベンゾ[ah]アントラセンの干渉(右)から良好に分離されている様子を示している。[276+] の面積値をピークトップに示した。

Figure 1に示されているように、本分析条件においてIcdPDahAは極めて良好な分離を示し、互いの干渉がほとんどないことがわかります。では、IcdPDahAの分離はなぜ重要なのでしょうか?それは、DahA(整数質量278)が、電子イオン化(EI)によってm/z = 276(IcdPの整数質量)の非常に強いシグナルを発生するため、この二つが化合物が共溶出すると深刻な影響を分析に与えるためです。

具体的な問題点としては以下の通りで、項目別にその影響を詳しく解説していきます。

  • 校正バイアス
  • サンプル毒性の誤評価
  • DahA[276+]シグナルがIcdPであることの誤同定(これは特に性能試験中に深刻な問題となります。)
 

校正バイアスの影響

例えば、IcdPDahAが共溶出した場合、IcdPの定量イオンシグナル([276+])はDahAの影響を受け、38.2%増加します。そのため、これらの成分の分離が不十分な条件で校正(定量)を行うと、サンプル抽出液中のIcdP濃度が著しく過小評価される可能性があります。しかし、Figure 1の抽出イオンクロマトグラムが示すように、Rxi-SVOCms(Cat.#16623)を使用することで、インデノ[123-cd]ピレン(IcdP)とジベンゾ[ah]アントラセン(DahA)を明確に分離できるため、校正バイアスの影響を抑えることができます。

サンプル毒性の誤評価とその影響

PAH混合物の毒性プロファイルは、毒性等価換算係数(PEF)によって評価されます。発がん性はベンゾ[a]ピレン(BaP)当量として表されます:

  • Indeno[123-cd]pyrene PEF = 0.1 インデノ[123-cd]ピレン PEF = 0.1
  • Dibenz[ah]anthracene PEF = 2.4 ジベンゾ[ah]アントラセン PEF = 2.4
  • Benzo[b]fluoranthene PEF = 0.1 ベンゾ[b]フルオランテン PEF = 0.1
  • Benzo[k]fluoranthene PEF = 0.1 ベンゾ[k]フルオランテン PEF = 0.1
  • Benzo[a]pyrene PEF = 1.0 ベンゾ[a]ピレン PEF = 1.0
 

PEFは化合物ごとに大きく異なり、例えばIcdPのPEFはわずか0.1であるのに対し、DahAのPEFは2.4と大きな差があります。それでは、IcdPの濃度が約40%過小評価されても、実際のリスクに大きな影響を与えないのでしょうか?その影響は、サンプル中の各PAHの相対的な存在量によって決まります。
NIST SRM「PAHs in Coal Tar」の分析結果(Figure 2)を見ると、このケースではIcdPの含有量がDahAを大きく上回っています。もしこれが食品のPAH検査であった場合、シグナルの大きいPAHが約40%過小評価されることで、安全性評価に深刻な影響を及ぼす可能性があります。その結果、実際には基準値を超えている食品が誤って「安全」と判断され、市場に流通してしまうリスクが生じるかもしれません。

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Figure 2 - NIST SRM 1597a(GC_EV1606の一部)におけるインデノ[123-cd]ピレンとジベンズ[ah]アントラセン

DahA由来の[276+]イオンシグナルの誤同定

IcdPDahAが共溶出すれば正確な同定が困難になり、分析精度に影響を及ぼす可能性があります。なぜなら、DahAのみが比較的高濃度に含まれるPT(性能試験)サンプルを受け取った場合、[276+] イオンのシグナルにはDahAIcdPの両方が寄与する可能性があるため、どちらの化合物に由来するものかを正確に判別することができないからです。これら2成分の共溶出により誤った報告を繰り返せば、規制機関がラボの分析実施認証を取り消す可能性が高まります。したがって、IcdPDahAの正確な定量には、適切なカラム選択と分離条件の最適化を行い、良好な分離を得ることが重要となります。

Rxi-SVOCms カラムを用いた推奨分析条件

30 m x 0.25 mm x 0.25 µm Rxi-SVOCmsカラム(cat#16623)で86種類のターゲット化合物およびサロゲートについて、1 ng/µL~120 ng/µL、またはカラム負荷量100 pg~12 ngの範囲で8点校正を行った場合の、継続校正検証濃度 (20 ng/µL) をFigure 3に示しています(GC_EV1604)。

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Figure 3 - GC_EV1604 - 94成分の半揮発性標準試料のトータルイオンクロマトグラムの例:スプリット比10:1で、各成分のカラム負荷量2 ng

分析時間を16分に最適化した本条件では、分離が必要となるPAHのクリティカルペア(BbFBkFIcdPDahA)において優れた結果が得られました。MSD ChemStationによると、BbFBkFの分離度(バレー値)は86%、IcdPDahAの分離度は87%となりました。さらに短時間での分析が必要な方に向けて、次回、重要な分離を維持しつつ分析時間を5分短縮する方法を説明します。