キャピラリーGCカラムキラー(カラムを劣化させる原因) Part 3(日本語)
24 May 2012単体硫黄
多くの試料抽出物、特に石油製品由来の抽出物には単体硫黄が含まれている可能性があります。石油精製時の脱硫による副産物は、硫黄の供給源のひとつでもあります。その他に高濃度の単体硫黄を含む試料としては、海洋堆積物や産業廃棄物などが挙げられます。
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単体硫黄は厳密な意味ではカラムにダメージを与えることはありません。しかし、固定相の汚染原因であり、その除去は非常に困難です。硫黄は非常に反応性が高いため、一度硫黄によって汚染された固定相は活性のある化合物の吸着もしくは分解を引き起こす可能性があります。これはとりわけ農薬分析に当てはまります。
以前から、EPAは単体硫黄を含有する試料が試料分析時に問題を引き起こすことを指摘していました。EPAメソッド8081A、8082Aおよび8141Aでは、単体硫黄含有の可能性がある試料については、活性化された銅または亜硫酸テトラブチルアンモニウムによる硫黄の除去が推奨されています。硫黄除去の詳細については、US EPA Method 3660B をご覧ください。
ただし、硫黄のクリーンナップをおこなった場合、いくつかの目的化合物も除去されてしまう可能性があります。必ず予備試験をおこなってください。 EPA Method 3640A (GPC Cleanup) もサンプルからの硫黄除去に使用でき、多くの場合、望ましくない化学反応を起こさないとの意見も聞きます。ただし、目的の化合物が硫黄と同時にGPCカラムから溶出する場合、他のクリーンナップ法を考える必要があります。
下図は、硫黄のピークを示したクロマトグラムの例(Jack Cochran氏よりご提供)です。赤いクロマトグラムはクリーンナップ前、青色のクロマトグラムはクリーンナップ後を示しています。測定対象は有機塩素系農薬で、検出器はECDです。この大きな硫黄ピークは、目的の化合物の定量の妨げとなるだけでなく、前述のように、カラムを非常に反応性の高いものへ変えてしまう可能性があります。
単体硫黄の検出や定量が目的の場合ももちろんあります。ASTMメソッドには、石油製品中の硫黄元素の定量方法があります。最近では、石膏ボード中の硫黄元素や硫黄化合物の分析用メソッドも開発されてきています。下記リンクは、EPAの石膏ボード中の硫黄分析に関するポスターのリンクです。
Field Analysis of Elemental Sulfur in Drywall by GC/ECD
石油製品や海洋堆積物、産業廃棄物などのサンプルを分析後、クロマトグラムに問題(テーリングや活性のある化合物の感度低下、説明のつかないベースラインの盛上りなど)が生じた場合には、サンプル中に存在する単体硫黄による影響の可能性もあります。クロマトグラムを正常に保つために、このような化合物の除去を予めしておくと、トラブルシューティングにかかる時間を減らすことができる可能性もあります。