GC分析の最適解:カラムと検出器の選び方
14 May 2025GC分析において、特定の分析対象に対して最適なカラムと検出器の組み合わせを選択することは、正確で信頼性の高いデータを得るために不可欠です。特に、永久(固定)ガス、軽質炭化水素、高沸点化合物など、特性の異なる化合物群を分析する際には、検出器の原理とカラムの分離メカニズムを理解することが重要となります。詳しく解説した以前の投稿もご参照ください。
GCカラム選択の最適解【第3回】カラム容量および検出器の感度特性と直線性
GC/MSは、複雑な混合物中の微量成分の同定に非常に有効なツールですが、永久ガス(ヘリウム、水素、酸素、窒素、一酸化炭素など)の分析にはいくつかの課題があります。それは、永久ガスの分子量の小ささに起因して十分な感度や分離が得られないことや、適切なカラムの選択の難しさなどです。これらの課題を克服するために、TCD、HID、DIDなどの汎用検出器がしばしば推奨されます。
他にもGC/MSの使用が最適ではない分析があります。以下のような分析対象成分(化合物)と検出器の組合せを推奨します。すべてを網羅しているわけではないことにご留意ください。
- 軽質炭化水素(メタン、エタン、プロパン、ブタンなど、およびその関連化合物/異性体)– FIDが最適
- ホルムアルデヒド(および水蒸気)– TCD、HID、DIDが最適
- アンモニア – TCD、HID、DID、IRDが最適
- 硫化水素(およびその他の軽質硫黄ガス)– SCD、FPDが最適
- メタノールおよび/またはアセトアルデヒド(およびその他の軽質アルコール/溶媒)– FIDが最適
- エチレン(およびプロピレン)グリコール – FIDが最適
- 高沸点化合物(約450℃を超える沸点)– FIDが最適
- TCD = 熱伝導度検出器
- HID = ヘリウムイオン化検出器
- DID = 放電イオン化検出器
- IRD = 赤外線検出器
- SCD = 硫黄化学発光検出器
- FPD = 炎光光度検出器
- FID = 炎イオン化検出器
上記の化合物に対して、別の検出器(TCD、FID、または硫黄特異的検出器など)を推奨する理由を以下の通りご確認ください。
まず、7. 高沸点化合物について、検出器としてのファーストチョイスはFIDと考えます。というのも、沸点が450℃を超える化合物は、スプリット/スプリットレス注入口を通過できたとしても、質量分析計のトランスファーライン内で凝縮してしまうリスクが高いためです。「トランスファーラインの温度を最大にすればいい」と考えるかもしれませんが、注意が必要です。フューズドシリカチューブを約300℃を超える温度に常時さらすと、フューズドシリカチューブのポリイミドコーティングが時間の経過とともに剥がれ落ち、カラムが脆くなる可能性があります。さらに、このような高温に耐えることが出来るMXTカラムも製造していますが、通常は質量分析計での使用を推奨していません。ソース内部でアーク放電が発生する可能性があるからです。
次に、それ以外の1.〜6.の化合物について、質量分析計の使用を推奨しない理由は、これらの化合物のマススペクトルを見れば分かります。各化合物において、主要なm/zは45未満を示しますが、これは質量分析アナリストなら誰でも知っているように、決して理想的ではありません。この低い範囲をスキャンしたときに、干渉が多すぎるためです(非常に高いベースラインと感度低下が一般的に報告されています)。質量分析計が使用可能か、または使用すべきかを判断する前に、常にNIST Chemistry WebBookでマススペクトルを検索するのが良いでしょう。目的の化合物内のすべてのイオンがm/z 45未満の場合、質量分析計ではない検出器を適用するようにしましょう。NIST Webサイトからのマススペクトルの例を以下の通りご参照ください。
次のプロジェクトにGC/MSを使用することを決定する前に、質量分析計が本当に最適な検出器としての選択であるかどうかを確認してください。お読みいただきありがとうございます。