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Low-Pressure GC-MS (LPGC-MS)の概要

MSの真空を利用して分析を大幅にスピードアップ

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  • 従来のGC-MSより最大3.3倍、分析を高速化
  • ヘリウム使用量を最大81%削減し、コストを大幅に節約
  • 製造元で接続するリークのないキットにより、カラム交換と同じくらい簡単なカラムのセットアップ
  • 高速GC-MSおよびGC-MS/MS法に最適
 

質量分析計(MS)をGCの検出器として使用することは、化合物の同定や定量において多くの利点があります。しかし、GC-MSの真空を利用してカラム内を低圧(真空)に保つと分析スピードの高速化ができるという利点については、未だ十分に認識されていません。というのも、従来のカラムサイズでは、カラム出口側末端の数メートル程度しか真空に保つことができないため、カラム全体を真空に保つことが必要なLPGC-MSの実現は極めて困難であることが理由だと言えるでしょう。では、LPGC-MSは実際のラボで実現が難しい机上の空論なのでしょうか?答えは「いいえ」です。実は、LPGC-MSに適したカラムを現在のシステムに接続すれば、カラム全体の内圧を真空に保つことが可能で、GC-MSユーザーが誰でも簡単にLPGC-MSの恩恵を享受できるのです。

Low-pressure GC-MS (LPGC-MS)は、分析を大幅にスピードアップすることができる手法です。MSの真空システムとLPGC-MS用に設計されたカラムを組み合わせ、カラム内圧を真空に保つことによってこれを実現します。さらに、LPGC-MSではヘリウム消費量を劇的に削減できるので、コストカットも実現します。では、LPGC-MSを活用するにはどのようなシステム構成が必要になるのでしょうか?実はとてもシンプルです。MS側に0.53mmまたは0.32mm内径の短い分析カラムを、また、GC注入口側にリストリクタを接続するだけです。これにより、分析カラム全体が真空に保たれ、LPGC-MSの恩恵を受けることができます。LPGC-MSでは、カラム内圧を真空に保つ必要があるのでカラム長は10~15m程度となります。そのためカラムの理論段数は低下するのですが、分析の高速化と消費ガスの大幅な節約というメリットがあることから、目的によっては極めて魅力的な手法となるでしょう。ちなみに、カラムの理論段数に起因して成分の共溶出が発生しても、LPGC-MSは質量分析計が使用されているので、デコンボリューションを活用して効果的に成分の分離ができれば分離問題の影響は最小限に抑えられます。

Figure 1Table Iに従来のGC-MSとのとLPGC-MSの比較を示しました。GCカラム内を真空に保つことで、分析スピードだけでなく、感度についても改善されていることが分かります。それでは、「Vacuum-outlet GC」、または「Low-Pressure GC-MS(LPGC-MS)」として知られているこの技術について、さらに詳しく解説していきます。

Figure 1: 食品中残留農薬分析では、LPGC-MSを用いた場合、従来法と比較して分析スピードは3.3倍高速化、ヘリウム使用量は54%削減可能。カラム効率は低いものの、線速度が速くなることでピーク幅がシャープになりピーク高さが改善されるため、感度が向上している。また、MSを使用しているのでピークが密接して溶出しても、スペクトル分離が可能(ピークリストと分析条件を含む完全版はPDF(英文)でダウンロード可)。

 

 

 

LPGC-MSのアプリケーションはRestekのResource Hubで検索!

Table I: 従来のGC-MS法と比較すると、LPGCは顕著な分析の高速化に加え、ヘリウム使用量削減によるコストセービングが可能

Application Column Kit LPGC-MSのメリット
分析の高速化 He使用量削減率
Alkylfurans LPGC Rxi-624Sil MS, 10 m (cat. #11804) 2.3x faster 72% less
Arylamines LPGC Rxi-35Sil MS, 10 m (cat.# 11806) 3.3x faster 81% less
MCPDs LPGC Rxi-17Sil MS, 10 m (cat.# 11805) 2.0x faster 69% less
Nitrosamines LPGC Rxi-624Sil MS, 15 m (cat.# 11803) 1.8x faster 29% less
LPGC Rxi-624Sil MS, 10 m (cat.# 11804) 2.3x faster 67% less
Pesticides LPGC Rtx-5ms, 15 m (cat.# 11800) 3.1x faster 54% less
LPGC Rtx-5ms, 10 m (cat.# 11802) 3.3x faster 76% less
Phthalates LPGC Rxi-35Sil MS, 10 m (cat.# 11806) 1.4x faster 67% less
PFAS (Fluorotelomer Alcohols) LPGC Rtx-200, 10 m (cat.# 11807) 1.9x faster 60% less

 

高速GC-MSならLPGC-MSを選ぼう!

LPGC-MSは、分析時間を大幅に短縮しながら、MSデータ取得に必要なピーク幅が得られるため、高速GC-MSとしてもっとも効果的な選択肢です。通常、MS分析では30 m x 0.25 mm IDカラムが使用され、約120,000の理論段数を持ちます。このカラムフォーマットでも適切なキャリヤーガス流量を維持することで、MSの真空システムと注入口のヘッド圧を安定させ、分析感度や精度を保ちながら多少の分析高速化は可能です。

一方、LPGCカラムキットは、短い0.53 mmまたは0.32 mm IDの分析カラムとリストリクタカラムで構成されたカラムを使用します。理論段数は約30,000、分析時の流量は2 mL/min程度で運用されます。このキットを使用すると分析カラム内が低圧(真空)状態となるため、キャリヤーガスの最適線速度が大きく改善し、従来の30 m x 0.25 mmカラムと比較して分析時間を最大3.3倍高速化できます。ピーク幅も1.5~2秒と、MSデータ取得に十分なデータポイントを確保でき、カラム内径が0.53 mmおよび0.32 mmと太いので、細径カラムに比べて試料導入量を増やせる、という利点もあります。

LPGC-MS以外にも分析速度を上げる方法はあるのですが、それらの方法には以下のような課題が存在しています。

  1. 短くて細いカラムを使用する
    10 m x 0.10 mmのカラムは、30 m x 0.25 mmカラムと同等のカラム効率(理論段数)と分離能が得られますが、内径が細く試料導入量が小さいので、同量の試料を注入すると、ピーク形状のトラブル(例えば、「フロンティング」)が発生します。ピーク形状トラブルを回避するには、サンプルの濃度を低くするか、または注入量を大幅に減らす必要があるので、感度という点で問題が残ります。
  2. 高流量で30 m x 0.25 mmカラムを使用する
    流量の増加は分析時間を短縮するための最も簡単な方法です。しかし、分析時間を1/3に短縮したい場合、流量は約12 mL/min程度、注入口圧は約63 psiが必要です。このような条件では、注入、MSのデータ取り込み速度、およびMSのターボポンプ容量に問題が生じるため、現実的な運用は難しくなります。
  3. 10 m x 0.25 mmカラムを最適なキャリアガス流量で使用する
    この方法では3~4倍の分析高速化を期待できますが、必要な注入口圧は約0.35 psiと非常に低くなります。この場合、スプリット注入や、圧力に影響を与えるカラムのトリミングが難しくなります。また、ピーク幅が非常に狭くなるため、MSのデータ取り込みに十分なデータポイントを確保できないという問題も生じます。
このように、LPGC-MSは他の方法に比べて、分析速度、ピーク幅の制御、試料導入量の点でバランスが良く、特にMSデータ取得において高い信頼性を提供するため、優れた選択肢と言えます。

LPGC-MSはどのように分析をスピードアップさせるのか?

「低圧」という概念こそがLPGC-MSの利点の核心です。低圧の重要性を理解するために、カラムの「最適線速度」から話を始めましょう。

いずれのGCカラムにも、最も効率的な分離を生み出すキャリヤーガスの「最適線速度」が存在します。最適線速度に対して、使用するキャリヤーガスの線速度が低いと、ピークが広がり、分離度が低くなります。逆に線速度が高いと、成分とカラム固定相の相互作用に必要な時間が取れず、分離が悪くなります。そのため、GCカラムの性能を十分に引き出すためには使用カラムの最適線速度を選択することが非常に重要になります。

では最適線速度とはカラムサイズが同じであれば常に一定なのでしょうか?答えは「いいえ」です。最適線速度に関係する重要なポイントを以下に示します。

  1. カラム圧力が低圧(真空)になると最適線速度は高くなる
  2. キャリヤーガスの粘性が下がると最適線速度は高くなる
  3. カラム圧力が低圧になるとキャリア―ガスの粘性が下がる

つまり、GCカラム圧力が低圧(真空)になるとキャリヤーガスの粘性が低下し、最適線速度は高くなるため(Figure 2)、分析を高速化しても分離を損なうことがない、ということになります。

Figure 2: 異なるカラム内径と内圧のVan Deemterプロット:低圧条件の0.53 mm IDキャピラリーカラムでは、最も低いHETPとなる最大カラム効率が、より高い線速度で達成されることが示されている(HETP=理論段高さ)。

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しかし、GCカラム全長にわたって圧力を低圧(真空)に保つことは容易なことではありません。特にGC-MS分析で一般的に使用されるカラムサイズ(例えば、30m×0.25m)においては不可能と言って良いでしょう。次のセクションでは、GCカラム全体を低圧(真空)に保つ場合に起こり得る問題と、それに対する解決策について解説します。また、クロマトグラフィーの分離効率と、LPGC-MSの大幅な速度向上およびヘリウム使用量の削減、という3つのバランスを保つにはどうしたらよいか、という点についても解説します。

詳細はこの後述べますが、内径が0.53 mmまたは0.32 mmの比較的短いGCカラムをMSに接続すれば、MSの真空ポンプにより、カラム内を低圧にすることが可能です。ただし、カラム長が短く内径の太いカラムは、カラム長が長く内径の細いカラムに比べて理論段数(カラム効率の尺度)が低下します。つまり、LPGC-MSカラムでは、一般的に使用されるGC-MSのキャピラリーカラムの分離性能を上回ることはありません。そのため、LPGC-MSでは質量分析計で得られたMSスペクトルを用いたMS分離によって、クロマトグラフィー分離を補うという点も重要となります。

長年の課題

Low-pressure GCの歴史は古く、1960年代には文献に登場しその理論が論じられており、それ以来、世界中の人々がラボでの実用化を試みていますが、その普及は足踏み状態でした。分離を維持しながらラボの効率を大幅に改善することができて、さらに、その利点についても広く認知されていたにもかかわらず[1-15]、なぜLPGC-MSは普及しなかったのでしょうか?実は、LGPC-MS普及の障壁は、クロマトグラフィーの性能に関する問題ではなく、むしろ、装置セットアップの難しさにありました。

LPGCの実用化には、注入口のヘッド圧を適した圧力に保つ一方で、カラム出口側からカラム内のガスを効果的に排気し、GCカラム全体を低圧(真空)に維持することが必要です。そして、質量分析計(MS)が普及したことにより、空気とキャリヤーガスをポンプで排出するMSの真空ポンプを活用することで、カラム内圧力を下げることができるようになりました。しかし、GCカラム内を効率的に排気できるのは、比較的カラム長が短く内径の大きなカラムのみとなります。また、このようなサイズのカラムをMSに接続すると、通常ではGC注入口を最適なヘッド圧に維持することができませんでした。つまり、カラム全体を低圧(真空)に保つことはできても、ヘッド圧を適正な圧力で安定した状態に維持するという点において課題が残っていたのです。

しかしこの課題は2000年代初頭に解決されます。分析カラムのフロントエンドに「リストリクタカラム」を接続することで、GC注入口のヘッド圧を維持しながら、MSの真空システムによって分析カラム内の圧力を効果的に下げるというアプローチが登場したのです。しかし、非常に細いキャピラリーチューブのリストリクタカラムと、太い分析カラムの接続がうまくいかない、という新たな問題に直面します。

異なる内径を持つリストリクタカラムと分析カラムを接続することは、非常に難しい作業です。たとえば、0.18 mm 内径のカラムを0.53 mm 内径のカラムと接続することを想像してみてください。GCの専門家でさえ、異径キャピラリーチューブの接続作業は避けたいと考えるでしょうし、リークのリスクがあるセットアップは極力避けたいところです。さらに、こうした接続には、信頼性が高く堅牢なカラムコネクタも必要不可欠です。通常のGCオーブン内でもコネクタは厳しい条件に耐える必要がありますが、LPGCでは分析スピードアップに伴う昇温サイクルの高速化によりその負荷はさらに増します。もしコネクタに問題が生じれば、カラムの交換やサンプルの再分析が必要となり、時間とコストが無駄になります。

LPGC-MSが提供する分析の高速化やヘリウム消費量の削減効果は、数々の研究で実証されているにもかかわらず、これらの接続上の課題がその広範な普及を妨げてきました。そこで、Restekはこれらの課題に対処するために、Restek工場であらかじめ接続して信頼性を確保したリークフリー(リークのない)Low-Pressure GC(LPGC)カラムキットを開発しました。このキットは、LPGC-MSの利点を最大限に引き出し、日々の分析作業をより効率的かつ安心して行うための最良の解決策となります。

シンプルなソリューション - LPGCカラムキット

LPGCカラムキットは、これまでLPGC-MSの普及を妨げてきた課題を克服するよう設計されています。これにより、誰でも簡単にLPGC-MSのセットアップができるので、多くのラボでLPGC-MSがもたらす生産性向上とキャリヤーガス消費削減の利点を活用できます。LPGCカラムキットは、必要なリストリクタカラムと分析カラムがRestek工場でゼロデッドボリュームとなるよう接続されているので、ユーザー自ら難しい接続作業を行う必要がありません(Figure 3参照)。RestekのLPGCカラムキットは、LPGC-MSのセットアップがカラムの交換と同じくらいシンプルで、誰にとっても簡単な作業となるよう設計されており、リークのない性能を保証するために一つ一つがテストされて出荷されます。

Figure 3: Low-Pressure GCカラムキットの構成

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カラムキットの注入口側のリストリクタカラムには、長さ5 m、内径0.18 mmまたは0.15 mmの不活性化処理チューブを使用しており、このリストリクタチューブをGC注入口に取り付けることで、ヘッド圧を安定的に維持します。また、数百回にわたる昇温分析でもリークしないよう、不活性・ゼロデッドボリューム・低熱容量のSilTiteカラムコネクタを用いてリストリクタカラムと分析カラムを接続しています。LPGC-MSの成功に不可欠である安定したリークのない接続を確立するために、この接続はRestek工場において製造工程の一部として行われます。

RestekのLPGC分析カラムは、MSの真空システムで効果的にカラム圧を低圧(真空)に維持できるようなサイズが選択されており、従来の30 m × 0.25 mm カラムと比較して、より短時間で効率的な分析が可能です。また、ユニークな固定相とサイズを採用しており、非常に汎用性が高いのが特徴です。このカラムキットの性能を最大限引き出すためには、MSインターフェースへの取り付けの際に、60:40のべスペル/グラファイト製フェラルを使用することも小さいですが重要なポイントです。また、ナットを締めすぎてチューブを潰さないようにすることもポイントです(Figure 4)。また、0.53 mm 内径のLPGCキットには0.8 mmのフェラルを、0.32 mm 内径のキットには0.5 mmのフェラルを使用することを推奨しています。

Figure 4: カラムキットのベストなパフォーマンスのために、60:40のVespel/グラファイト製フェラルを使用し、MSナットは締めすぎないよう注意:0.53 mm 内径のキットには0.8 mm、0.32 mm 内径のキットには0.5 mmのフェラルを使用してください。

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LPGC-MSの利点を最大限に活用するには、300℃以上のオーブン温度でも30~40℃/分の高い昇温速度が可能なGCが必要です。しかし、米国で一般的に普及している120VのGCオーブンでは、この昇温速度を達成できないこともあり、LPGC-MSの高速化の利点を最大化が難しいケースもあるかもしれません。200V以上の電源を使用している装置であれば可能ですが、120Vのオーブンでは、RestekのGC Acceleratorオーブンインサートキット(cat.# 23849)を使用することで昇温性能を向上させることができます。オーブンインサートは、非常にシンプルですが効果的なアプローチです。オーブン容量を減らすことで、120Vの装置でも迅速な昇温が可能になります。もちろん、昇温速度を上げなくてもLPGC-MSは使用できますので必須ではありませんが、より高い温度で迅速に昇温できた方が、分析時間の短縮効果は大きくなります。

LPGCメソッドの開発ポイントとコツ

LPGCカラムキットを使用すれば、一般的なキャピラリGCカラムの交換をするのと同じような作業で簡単にシステムをセットアップできるので、すぐにLPGC-MSに適したメソッド開発や移管が行えます。ここでは効率よく作業ができるようポイントについて説明します。投資は従来のメソッドよりも分析が高速化されることで十分に回収できます。

LPGC-MSのメソッド開発・移管では、まず最初にGCソフトウェアにカラムサイズを設定するところから始まります。複数のサイズのカラムを設定できる場合でも、ご使用のソフトウェアでカラムサイズを定義する場合、リストリクタカラムの長さと内径のみを使用してください。

次に、従来のGC-MSカラムで開発したメソッドをLPGCカラムキットへメソッド移管する際のポイントを説明します。まず、既存メソッドの開始温度と終了温度を使用し、オーブンの昇温速度を2~4倍に設定します。ただし、ご使用のGCが対応できる昇温速度の範囲内で行ってください。次に流量調整ですが、LPGC-MSにはおおよその推奨流量があるため、カラムサイズに合わせてその流量を使用してください。また、作成したメソッドに合わせて、同じ流量条件でMSを再チューニングし感度調整を行ってください。しかし、流量が高すぎると質量分析計の真空度への影響が出て、感度が低下する可能性があるので注意が必要です。

LPGC-MSでは分離度低下が観察される可能性がありますが、この点は質量分析計を用いればMS分離で対策することができます。ただし、従来のGC-MSメソッドで、共通する特定のイオンを持つ化合物同士が近接して溶出する場合はLPGC-MSメソッドでは注意が必要です。共溶出する化合物がMS分離できない場合、LPGCメソッド開発の際に、分離条件の調整が必要になるかもしれません。特に質量スペクトルが非常に類似している化合物同士の場合、この問題が顕著になる可能性があります。

オンラインメソッドトランスレータを使用すれば、サイズの異なるカラムについて新しいメソッド条件を計算することができますが、Low-Pressure GCではこのツールを使用することができません。そのため、メソッド開発には多少の時間的投資が必要ですが、サンプルスループットの大幅な向上により、その投資はすぐに回収ができます。また、Restekでは従来のGC-MSからLPGC-MSへのメソッド移管について、Step-by-Stepのガイダンスやサポートも提供していますので、メソッド開発に必要な時間を最小化するために、そちらも是非ご利用ください。

RestekのLPGC-MSキットだからこその信頼と安心

たくさんのサンプルを日常的に処理しているハイスループットラボでは、いかなる新しい手法の導入もリスクとなり得ます。そのリスクを回避するためには、堅牢で安定性の高いメソッドを選ぶことです。十分な検討を経てLPGC-MSメソッドが開発され、Restekのカラムキットがインストールされれば、LPGCカラムキットは安定した性能を発揮します(Figure 5参照)。

Figure 5: LPGC-MSでホウレンソウ抽出物を500回注入しても、これらの異性体の分離度、ピーク形状、分解能、保持時間に変化は見れれなかった
(ピークリストと分析条件を含む完全版はPDF(英文)でダウンロード可)。

従来、LPGC-MSソリューションで最も脆弱な部分の1つは、分析カラムとリストリクタカラムの接続部分です。GCオーブン内の環境はカラム接続にとって非常に厳しく、急激な昇温や降温が繰り返されることで、異なる材質(例えばカラムとコネクタ)が不均一に膨張・収縮を繰り返す結果、接続部位からのリークリスクが高まります。さらに、オーブン冷却時にオーブンファンからの風がカラム接続に大きなストレスを与えることもあります。カラム接続部位でのリークは、サンプルバッチ全体に大きな影響を与え、再分析や予期せぬカラム交換といったトラブル発生につながります。特にLPGC条件下では、カラム接続部位は、MSの真空ポンプからの吸引の影響を受けるため、接続の安定性が極めて重要になります。

これらの課題を解決するために、Restekは予め組み立てられたキットとしてLPGCソリューションを提供しています。私たちは長年にわたってさまざまなカラム接続技術を徹底的に研究してきました。 Low-Pressure GCカラムキットに使用されている低熱容量・ゼロデッドボリューム・不活性コネクタは堅牢で、長時間使用しても漏れはありません。特別に訓練された製造担当者が、特別に設計されたツールを使用して接続を確実に行ったのち、すべてのカラムは、製造時の品質管理評価としてリーク試験を受け、合格したものだけが出荷されます。

Figure 5に示されるように、RestekのLPGCカラムキットでは、500回のカラム耐久試験を通して顕著なピーク形状の悪化やレスポンスの変動がないことが分かります。つまり、注入と同数繰り返される昇温プログラムを経てもリーク発生がなかったということをこの結果は示唆していると言えます。また、Table IIは、LPGCカラムキットをインストールしたGC-MS/MSシステムのリーク試験の結果を示しています。この結果からも、500回の試験を通じて、システムにおけるリークが抑えられ、安定的な分析が維持されていたことが分かります。

Table II : 注入500 回の耐久試験における質量分析計のリークチェック結果
チューニング成分のレスポンスは試験全体を通して一貫しており、リークの兆候を示すイオン(例えば、水、窒素、酸素のm/z 18、28、32)も一貫して低いレベルに維持されました。これにより、500回の耐久試験においてリークの発生がなかったことが示されました。

70-320°Cのオーブンサイクル数

チューニング成分に対するリーク率

チューニング成分(m/z 69)強度(10x)

チューニング成分(m/z 69)シグナルの半値全幅(m/z)

0

5.03 % - Pass

107

0.70

100

4.69 % - Pass

107

0.71

200

4.08 % - Pass

107

0.71

300

3.85 % - Pass

107

0.71

400

3.40 % - Pass

107

0.71

500

4.59 % - Pass

107

0.72

LPGCカラムのメンテンナンス

LPGCカラムキットは長寿命であることが期待されますが、分析するサンプルの数およびタイプ、ならびに実施されるサンプル前処理の程度に応じて定期メンテナンスは必要です。注入口消耗部品(ライナーやシールなど)の交換でシステム性能が回復しない場合、従来のGC-MSカラムと同じように、カラムの一部をカットする必要があります。ただし、従来のGC-MSカラムとは異なり、LPGCカラムキットのカットは分析カラムではなく、サンプルからの残留物が蓄積された可能性のあるリストリクタカラムで行います。リストリクタカラムのインレット側から10~30cmをカットするとほとんどの場合で性能は回復しますが、リストリクタカラムの長さは5メートルしかないため、カットはできるだけ短く行い、カラムカットは合計3メートル未満としてください。リストリクタカラムを切りすぎると、GC注入口にMS真空ポンプの吸引の影響が出て、注入口のヘッド圧を安定的に適正圧に維持できなくなる可能性があります。

リストリクタカラムをカットすると保持時間が変化するため、メソッドパラメータの変更を行ってください。GCソフトウェア設定でカラム長さを調整して同じ流量で分析を続けるか、またはソフトウェア上のカラム長は変更せず流量(線速度)を下げて、カラムカットに対応するようにしてください。パラメーター変更により保持時間が正しく調整されれば、MSの解析ウィンドウを変更する必要はありませんが、念のためサンプル分析の前に確認すると良いでしょう。

LPGCカラムキットを交換する際には、キット全体の交換をお願いしています。リークのないことが確認された、Restek工場で接続済みのキットを使用することが、LPGC-MSによる分析時間の短縮とヘリウム消費量の削減の恩恵を受ける、最も簡単で、迅速かつ極めて信頼性の高い方法であるため、キットを分解して新しいカラムを接続することは推奨していません。

新しいLPGCカラムキットを取り付けると、目的成分の絶対保持時間が変動(シフト)することがあります。化合物間の相対的な分離は、キット間で一貫性を保つはずですが、±10秒を超えるような絶対保持時間のシフトに対応するには、目的成分の保持時間ウィンドウの再設定が必要になるかもしれません。MSイオンのモニタリングウィンドウを広げたメソッドで標準物質を分析すれば、保持時間ウィンドウを素早く再設定できます。また必要があれば保持時間に合わせてキャリヤーガスの流量を調整することも可能です。

Low-Pressure GC-MSのシンプルで信頼性の高いセットアップ

GC-MSの真空システムを活用したRestekのLow-Pressure GCカラムキットにより、カラム交換とメソッド更新だけで、誰でも簡単に装置の生産性を向上させることができるようになりました。LPGCカラムキットを使えば、サンプルスループットを改善するだけでなく、ヘリウム使用量も大幅削減が可能です。大きな投資が必要となる新装置の導入だけが、ラボの効率化を叶える選択肢ではありません。RestekのLPGCカラムキットなら現在のリソース(既存装置)を最大限活用しながら、クロマトグラファーの大切な時間を有効活用し、ラボのコスト削減を実現する選択肢になるかもしれません。

参考文献

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GNAR3505C-JP